【読書メモ-7】農民ユートピア国旅行記
「農民ユートピア国旅行記」
アレクサンドル・チャヤーノフ著 和田春樹・和田あき子訳
まず目次がいい。
なろう小説かよっていうくらい説明的な章題がこれでもかと並ぶのがいい。
「第3章のつづき。章が長くならないために独立させた章」
とか、
「第9章と全くよく似た章」
何て言う投げやりなタイトルもあれば、
「ベーラヤ・コルビの定期市を描写し、恋愛の出てこない小説はからしをつけない脂身みたいなものだとする点で著者がアナトール・フランスと見解を完全に同じくすることを明らかにする章」
「見事に改善されたモスクワの博物館や娯楽について描き、不快きわまりない予期せぬ出来事で中断される章」
なんていう、貴様あらすじをそのまま章のタイトルにするでない、とツッコミを入れながら読める楽しい章もある。
作中に出てきて主人公が読んだ新聞が、そのままレイアウトされて巻末おまけについてくる仕掛けもいい。
1920年に書かれた古い小説のはずなのにするする読める。
旧ソビエトの農民民主主義の提唱者が、自らの理想が実現した未来のユートピアを描いた小説だとは思えないくらいに。
作者の思い描いた美しい理想郷にたどり着いた主人公が、幸せいっぱいのまま幕を閉じるのかと思いきや、ラストはふしぎに不穏だ。
この終幕の静かな不穏さゆえに、わたしはこの小説を忘れないと思う。